真空管物語

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家で録音をする時のこだわりがある。

ギターだけはマイクを立てアンプとスピーカーから音を鳴らし録音するというものである。

どれだけ近所迷惑だと同居人に言われようがギターだけは真空管アンプの音で録ることだけは譲れない。


古いアンプである。ルックスに惹かれインターネットで探すこと八ヶ月ほど、ようやく見つかったものの説明欄には「ジャンク品」と書かれていた。だが、「まぁジャンク品でも買ってから直せば良い」と考えた成金収集家みたいな根性はとても恥ずかしいが、その日には購入ボタンを押していたと思う。他所ではそんな意地汚い粗相はせず、凛とした背筋で中野音響へ持ち込んだ。「これ、直してください」"またこれは、、古いの持ってきたね〜。ナニコレ?"


変なもの好きでジャパンビンテージ排他主義の中野さん(個人の感想)からすれば、まるで金持ちの暇潰しのように思えたと思うが、貧乏なフリーターがなけなしの金で手にした宝物である。

真空管が古すぎて代わりのものは無いと思うよ。"(中を)見てみるけど、期待せんとってね"どれくらい時間がかかるかも分からんし。


そう言われてから三ヶ月ほど経過したアルバイト中の午後、見知らぬ番号からの着信が入る。中野さんからであった。

"預かってたやつ、なんとか音出るようになったよ〜"

「まじすか!?すぐ取りに行きます」

ということでバイトを早退して原付で取りに行く。

 


ラッキーなことに真空管が原因で音が出なかったわけではなく、コンデンサーやなんやらの劣化が原因であった。

"ただし、真空管ももうかなりボロボロだからいずれ使えなくなると思うよ。そしたらその時また考えなさい"

 

 

 

 


そう言われてちょうど4年ほどが経過した。

ギターの録音の最後のフレーズ、強烈なディストーションにリバーブを重ねその上にさらにファズを噛ませた結構な音量を録り終えた直後に、聴いたことのないノイズを放ち俺のアンプから電源が落ちた。

 

 

 

本当に録り終えた直後だった。

 


死にかけが一番良い音がするなんて聞いたことがあるけれど、ここ半年くらいは本当に良い音が鳴っていた。それを思い出し腑に落ちたりもした。

 

 

 

死別に似た強烈さが頭に残る。

腐らない分数倍マシではある。

が、心の風穴は比べられないくらい等しかった。

 


本当に直らないのかしら、

岡山の駆け込み寺を探すところからスタートするわけである。