愛はなんでも

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この夏に結婚する友人の式でスピーチを読むことになったので、何を言おうか考えていました。

しかし、しばらく考えてもなかなか何も浮かばない。
結婚の経験もしていないのに、友人へ向ける謳いは今のところ無い。
友人はきっとそんな堅苦しさを求めても、まして与えているつもりもないだろう、いつだって言う側は簡単、応えるほうが偉いんじゃと思いながらとりあえず発泡酒を飲みます。

その友人とは駆け出しの学生の頃からの付き合いなので、身内以外で一番彼を理解している自信もあり、「話しがあるからガストへ来い」と言われた時にもすぐにピーンときた(ははぁ、こいつ、さては暇なんだなと思った)。
ファミレスに着いて、ひと息ついてから「話ってなんや」とこちらから切りだすと、「結婚することになりまして」と言うてはったので「おめでとうございます」と伝えました。仲の良い奴ほど、デケェ人生単位の話って対して耳に入ってこない。実感が沸くのはいつだって帰路だ。

「式も挙げるつもりだけど、スピーチはお前に任せたい」
帰り道に車を運転しながら、当日自分のスピーチを聞きながらすすり泣く友人、何も言わずに右目から涙を流す新郎、スピーチを大切に聴く花嫁を想像したりなんかしたけど、肝心のスピーチを創造できねぇ。結果だけ想像して、途中経過をイメージできないのはまだまだ三下の証です。

まぁ、先の話だから追々考えるかと思っているといつの間にか5月になっておりました。
自分の故郷から随分離れたので、家族を大事にする気持ちが一層強くなった僕は、まず母の日を大切にしようと決断し、今週の水曜日に花屋さんへ行くと、案内してくれたスタッフは男性だったのですが、目が笑っておらず、すぐさま理由が分かったが、どうやら花屋さんは義眼のようだった。僕は遠方にいる母親とおばあちゃんに花束を送りたいけれど、いまそんなにお金がなくって花の価格と送料にビビっているという旨を伝えたところ義眼の花屋は花キューピットを使ってはどうかと提案してくれた。僕は花キューピットがなにか分かっておらず、提案された時は、よつばが代わりに通りすがりの人に花を配っているシーンが浮かんだが、「あー!その手がありましたね!」と、その案に乗っかっておきました。家族を大事にするというでけぇ気持ちと金欠を躱そうとする侘しい脳みそを抱えた男と、花について詳しく教えてくれる男の違いは、身体のどこにもないなと考えながら御礼を伝えて店を出た。

この歳で経験する初めてのことはいくつもある。義眼の人に会ったのは初めてだし、この前初めてシャコエビを食べた。つーか、花キューピットを利用したのも初めて。そして結婚のスピーチをするのも初めてだ。この初めてが、彼の結婚式で良かったなとしみじみ思った。今更、俺とお前の関係性を直接的な言葉で浚ってもどうしようもならない。初めてのセレモニーである。シャコを食った瞬間の美味さと同じ、初めて行なうその輪に僕を加えてくれた。そして僕もセレモニーに加わるのが初めてだ。それだけでもう十分な気がする。大した日でもあるし、大した日でもない。
ただ、
愛はなんでも、なんにでもなるので
それだけ忘れないでおこうと思います