2/15 ホントのショートショート

車のガソリンが少なくなってきた。みんな、メーターが半分を越えたころからガソリンを入れるタイミングを考えたりすると思う。向こう二日くらいの自分の移動パターンをシュミレートしたりガソリンの減り具合をイメージしたり。更には安いスタンドなんかも考慮したりして、なるべく節約するのが世の中のスタンダードだと思ってる。


しかし、その日の自分は一刻も早く家に帰りてぇと思っていた。ガソリン給油ミッションを忘れていたのだ。そのミッションを思い出したのは、自宅まで残り10分くらいの距離。またもや痛恨のミスをしてしまった…!と嘆く(痛恨のミス二日目)。入れ忘れを繰り返すのも煩わしく、意を決して近所の昭和シェルに行くことにした。そこは多分自分が生まれる前から営業しているようなスタンドで、子供の頃、そこでガソリンを入れる両親も見たことないし、勿論自分も利用したことはない。しかも、ガソリンの値段が書かれていない。左ウインカーを出し減速しながら内心「いくらくらいだろうか…」とビビる。珍しくそのガソリンスタンドは混んでおり、先客が4組いたので手前で待つ。その間「値段が読めないし、2000円分だけ入れてもらおう」と財布との相談を済ませる。自分の番が来て近寄ってくる店員に「レギュラー2000円分」と伝えエンジンを切る。うなづいた店員はガソリンを入れながら窓を拭く。車内用の濡れ布巾を渡してくれる。自分はテキトーにハンドルを拭いたりしていると、まもなく店員がレシートを持って戻ってくる。自分は店員に布巾と2000円を渡し、レシートをぼんやり確認した。一瞬、理解できなかった。というか、最近のレギュラー価格を思い出せなかった。何故ならレシートには「レギュラー@123」と書かれていたから。


ひゃく、にじゅうさんエン…?は?最近のガソリンはこんなに安いのか?いや、多分絶対ちゃうやろ、少なくとも130円は超えてる気がすんぞ。じゃあこのアホみたいな価格なんやねん。あれ?待てよ…ここのガソスタもしかして、実はめちゃくちゃ安いんちゃうか…?だって、こんなにボロボロなガソスタに4組も行列作ってんのやぞ?しかも、この価格で窓拭き灰皿チェックのフルサービス…?知る人ぞ知るとんでもねぇ名店や…!!!


帰り道、心を躍らせながら運転した。たまたま見つけた最高のメシ屋、たまたま見つけた最高のバンド、それらに出会った時、人は誰にも教えたくない気持ちになると思う。自分もそういう気持ちだった。ボロボロな外観なのに潰れることなく今でも営業を続けており、尚且つ激安なガソリン、尚且つフルサービス、それでいてガソリンの値段を掲載してない店。めちゃくちゃかっこいいなと思った。出来る範囲で経営を継続している個人のようで、その手腕はさることながら、スタンスがカッコよすぎる。その店の虜になった。自分は安くガソリンを手に入れられるし、お店もそれで潤う。そしてお店が激安を売りにしないのならば、自分も口コミでこのお店の良さを広げるのはやめようと思った。これ以上広がればゆくゆくはセブンルール、果ては情熱大陸くらいまで話が拡がると思ったが、きっとそれはあのお店のおじさんは望んでない。何故ならばそういうスタンスではないからだ。なので、帰ってから家族に、そして親友一人にだけこのお店の話をした。他の人には言いたくなかった。何故ならばそういうスタンスだからだ。



それからそのスタンドをもう一度利用した。その日はちょうど混んでおらず、店員にレギュラー満タンを伝える。いつものように窓拭きを終えた店員がレシートを持ってきて金額を伝える。自分は言われた金額を渡しレシートを確認すると「レギュラー@125」という記載を確認する。


間違いねぇ…!この店はホンモノだ。あの日だけがマチガイで安かったとかじゃなくこの店は一貫して安い…!マジですげぇな…。ほんとカッコいいぜ。



安心した自分は、さながら記者や番組スタッフのような気持ちで店員に尋ねてしまった。どうしてこの店はこんなに安いのか。その答えを聞いてから、経営方針なんかも聞いて最高の気持ちになろうと、自分の中のパパラッチ精神を抑えることができなかった。質問を受けた店員は、その意味を理解できなかったような表情をしたが、数秒後には意図を理解し、口を開いた。











「あー!すいません。うちのレシート外税表記なんですよー」